Grand-mère の grand-

 

grand の後に女性名詞がついて複合語となっているが、grande と女性形にはしないケースについてまとめ。

grand-mère の grand は形容詞の性数一致の観点からすると、性に一致しないながら数には一致する(des grands-mères)。性については不変化の「接頭辞扱い」でありながら、数については「形容詞扱い」のごとくに一致することになる。いわば複合語構成要素としてのステイタスと、形容詞としてのステイタスの狭間に揺らいでいる。

問題:類例は在るか。またそれら類例においては件の性数一致に関してはどうなっているのか。

実情はむちゃくちゃで規則に整理するには例が足りなかったが、時間の無い人向けの結論を始めに書いておく。原則としては:

性の一致はしない、数の一致についてはどちらでもよい。書くなら複数の時には s は付けておいたほうが無難。

Grand-maman の複数形

この grand はもう形容詞というよりは、「一世代上の」というほどの意味の接頭辞と捉えられており複合語を作る。当然女性名詞の前に付くこともあるが、その際 grand の部分が不変とされる。もとの形容詞としての性質を失っているのだ。代表例は「おばあちゃん」:

  • grand-maman「おばあちゃん」
  • grand-mère「祖母」
  • grand-tante「大おば」

これらのケースで grand が不変というのはたいていの辞書に断りがある。ところがである。その割には複数形を作るとなると grands-pères や grands-parents と同様に、数の一致をしている節があるのだ:

  • grands-mères
  • grands-mamans
  • grands-tantes

となる。性の一致はしないのに、数の一致はするという不均衡。

ロワイヤル仏和では grand-tante の複数形に関しては「~(s)-~s」との指示があり、つまり grands-tantes と grand-tantes の2つの形があるという含みがあるが、これは本当か? おそらく上のどの単語でも「~(s)-~s」とするのが穏当ではないだろうか。

ちなみに19世紀リトレ(Dictionnaire de la langue française d’Émile Littré, version GNU)では grand’tante の複数形を grand’tantes とし、合わせて grand’mère の項では:

 Sur grand’pour grande, voy. GRAND, n° 22. L’erreur qui a mis et maintient une apostrophe à grand en ces cas a produit la ridicule anomalie d’écrire des grand’mères sans s, et des grands-pères avec s.

grande の代わりに grand’ とすることについては見出し語 grand の no 22 参照。ここで grand にアポストロフを付けるのは誤用によるもので、それが維持されているのであるが、この誤用のせいで複数の s を欠いた des grand’mères と、s を付した des grands-pères といったような、おかしな不整合が生じてしまっている。

と断っている。間違い (erreur) 、奇妙 (ridicule) と手厳しいが、ともかくも grand-mères の形に言及している。

Grand-chose は不変化でありがたい

こうした「揺らぎのある」用法というのは、語学者には頭が痛い。いちおうどちらかに決めておいてもらいたいとおもうのが人情というものだ。常にとは言わずとも、「通常」不変とでも言ってもらえれば有り難い。たとえば grand-chose のケースである。

  • grand-chose 「特筆すべきこと」

この grand-chose は普通「特筆すべきことはない」と言う文脈、つまり事実上は否定文にのみ使われる。原則不変である。形容詞を別に付けたければ grand-chose de adj. の形で付け、形容詞部分は男性形に一致する:

  • Il n’y a pas grand-chose de nouveau. 「目新しいことは大してない」

まことにさっぱりした扱いで有り難い。「特筆すべきこと」がたんとあった場合はどう言うのか、というような茶々を入れたくなる向きもあるだろうが(その場合 des grand-choses なのか des grands-choses なのか、はたまた des grandes-choses は在り得るか?* )、ここを食い下がってもインフォーマントに煩がられるばかりである。

類例に、こちらはハイフンでつながない形だが、 quelque chose がある。上の例文と共にロワイヤル仏和から:

  • Dis-moi quelque chose de gentil. 「なにか優しいことを言ってちょうだい」

変わらないなら変わらないで一貫しているのなら扱いやすい。

また、形容詞時代と同様にきっちり変化・一致してくれれば、それはそれで文句はない。「大公・大公妃(女大公)」のケースでは、前身の形容詞のケースとまったく同じく律儀に性数一致を一貫する。これはこれで納得がいく。

  • grand-duc / grande-duchesse
  • grands-ducs / grandes-duchesses

人間ばかりと限らない

さてこの grand- が使われるのは「一世代上の」という「人間に係る」ケースばかりには留まらない。人間以外を相手にすると「格が上の」といったほどの接頭辞として扱われる。女性名詞と複合した例とその複数形をロワイヤル仏和の記述から挙げてみる(アルファベット順):

  • grand-chambre 「高等法院大審部」 pl. grand(s)-chambres
  • grand-croix 「最高十字勲章」 pl. grands-croix
  • grand-garde 「前哨」 pl. grand-gardes
  • grand-messe 「歌ミサ」 pl. grands-messes
  • grand-peine 「かろうじて」 これは副詞化したもの。したがって当然不変化、複数形など無い。
  • grand’rue / grand-rue 「メインストリート」 pl. grands-rues
  • grand-voile 「主帆(メインマストの一番下の帆)」 pl. grand(s)-voiles

いずれも女性名詞と複合した例だが、grand の性の一致はいずれも行わない。しかし数の一致については都合三種類の取り扱いがある。

  1. 不変化固定 grand-gardes
  2. 揺らぎあり grand(s)-chambres, grand(s)-voiles
  3. 数を一致 grands-croix, grands-messes, grands-rues

さてこれは本当か? 他の辞書で検証してみると、どうも全部「揺らぎあり」に分類しておいたほうが良さそうな感じがする。

grand-croix について、リトレ(上掲)と TLFI (Le Trésor de la Langue Française Informatisé) で異同あり

  • 19世紀リトレ des grands-croix
  • TLFI des grand-croix

grand-voile はアカデミー・フランセーズ版 (Dictionnaire de l’Académie Française, 9e édition)で数の一致せず

  • Académie 9e grand-voiles

grand-messe については、TLFI とアカデミー9で異同あり

  • TLFI des grand-messes
  • Académie 9e Grand-messes

結論

性の一致はしない、数の一致についてはどちらでもよい。

もともと誤用の定着と見られており(リトレ)、読解の上ではどちらも出てくる。書くなら s は付けておいたほうが無難。では新語を作るとしたらどうなるだろうか。その場合は des grandes-duchesses のごとくにフルに一致しておくのがよさそうだ。Grande-Bretagne, Grande-Grèce, Grande-Terre などでは複合語でも女性形に一致している。複数形なら grandes- となるだろう。

____

*de grands-choses / de grande-choses / de grandes-choses の可能性について(2011/09/23 追記):
フランス語文法の基礎項目の一つに「形容詞が前に着いている語には、複数不定冠詞 des のかわりに de を用いる」という有名な anomalie がある。(無論それなりの説明はあるが)

des hommes grands「大きい男達」

de grands hommes「偉人たち」

形容詞が前に着くときと後ろに着くときでは、それぞれニュアンスが生じるという別個の大問題もほの見えるが、それは別稿の主題としよう。ともかく上の「形容詞の前置にともなう不定冠詞 des の使用の禁止」をこの「接頭辞とも形容詞ともとれる微妙な grand-」に適用した場合、上のごとく de grands-choses / de grande-choses / de grandes-choses という形ができる可能性がある。はたしてどの形が現行優勢なのか、google で調べてみようと思った。全文完全一致で検索してみたが、意味のある数字は得られなかった。

des grand-choses 58
des grands-choses 2060
des grandes-choses 7280
de grand-choses 16400
de grands-choses 325
de grandes-choses 104000
de grand-chose 67400

上は参考までに。ハイフンの有無が無視されてしまいデータにならない。de grandes choses のような、つまりハイフン無しの形がごっそり票を獲得しているはずで、この数字からは何も云々できまい。ちなみに引用符でくくった検索結果で、ハイフン有りと無しのヒット数を比較してみると:

“de grands-choses” – “de grands choses” = 0

“de grande-choses” – “de grande choses” = 0

“de grandes-choses” – “de grandes choses” = 1000

となった。どういう仕様なのか判らないが、最後の例だけなぜ違いが出るのか、やけに割り切りの良い数字も怖い。

いずれにしても、ハイフンの有無を無視するのは「親切設計」なんだろうけど、「ハイフンの有無でどういう差が出来るかを調べたい」時には迷惑な仕様だ。

広告
Published in: on 2011/08/26 at 14:41  Grand-mère の grand- はコメントを受け付けていません。  
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。