各種書類の「記入例」に登場するひとびと

固有名ではない「山田太郎」

「山田太郎」といえばわたしの世代にはまずは『ドカベン』の山田太郎であろうが、この名前はある意味特権的な名前である。「名前の代表」として使われることが多いのだ。

Japanese style resume

名前の範例というものがある。

苗字なら英語で「スミス」、フランスで「マルタン」、ドイツで「ミューラー」、スペインに「ガルシア」、ロシアは「スミノフ」——そして日本では苗字を象徴するのは「山田」であろう。

数で勝る「佐藤」や「鈴木」をおさえて良く使われるのは漢字の画数が少ないことにも因ろう。

姓名の「名」の方では日本では「太郎と花子」。英語では「ジャック・アンド・ベティ」、フランス語なら「ジャン・エ・マリー」、ドイツ語なら「ハンス・ウント・ハンナ」といったところか、スペイン語なら「ホセ・イ・カルメン」に決まりだろう。

名前を象徴する「太郎/花子」、当然お役所などの書類の記入例によく登場する。

納税 太郎(確定申告、預貯金口座振替依頼書ほか)

健保 太郎、社保 太郎、国保 太郎(保険証)

広域 花子(後期高齢者医療制度)

といった具合で類例は枚挙に暇がない。

「地名」太郎や「社名」花子はもはや常套手段である。一目で記入例だと判る無難なやり方であり、別に文句があるわけではない。お役所仕事としては「これしかない」という感じだろう。みなさまお住まいの地方自治体でも各種書類の「記入例」の氏名は通常「地名」太郎、「地名」花子であるはずだ。

太郎に次ぐ記入例使用頻度を誇るのは「一郎」である。

あとは見過ごしがちなのはそれぞれの時代に人気のアイドルの名前などを使用する例で、これは管見の限りでは「松田 聖子」の使用例がかつて圧倒的に多かった印象があるのだが、古すぎますか。個人的な好悪を別にすれば松田聖子の「世を席捲した」感はやはり強い。最後の国民的アイドルというか。

履歴書記入例では「坂本 竜馬」といった例もあり、これなどは激動の履歴になりそうで参考になるのかどうか。免許資格(https://pbs.twimg.com/media/CKmQY9yUsAAZr2t.jpg)に「北辰一刀流師範」などとあり、どこに就職するつもりなのやら。

やや洒落っ気を出した例もある

しかしこの「記入例の名前」にもう少しオリジナリティを出してくる会社、組織、団体というものがある。ちょっと応援したくなるのだ。

たとえば願書について、早稲田大学は「早稲田 太郎」だったはずだが芸がない。東大は「駒場 太郎」と少しだけ変化を見せるが、記入例が「一浪ベース」だったことが以前に話題になった。慶応義塾は「三田 次郎」だそうだ。おっと思わせる。これぐらいは渋くコースを攻めていきたいものだ。

イトー ヨーコ(イトーヨーカドー・カード)

クワトロ バジーナ(本千葉駅定期券申し込み)

ジャズ ゴリラ(司法試験願書)

タマ タマコ(多摩丘陵病院診察カード)

ハロ 一夫《はろ かずお》(ハロープロジェクト・会員限定ポイント申請)

伯林 芳秋《べるりん よしあき》(ドイツ語検定)

住宅 建雄(住宅瑕疵担保責任保険の保証書)

光 太陽(山口件光市 市役所補助金交付申請書記入例)※補助金交付申請書では「光 太郎」だった。

八戸 ときえ(八戸駅定期券申し込み)※これはご当地萌えキャラの設定があるらしい。

労働 過多(退職願の書き方)※酷すぎない?

外務 夏子(外務省、パスポートセンター)※かつては「外務 省子」だった覚えが。

多運 枠子(タウンワーク)

大阪 来太(大阪コピーライターズクラブ・問い合わせフォーム)

奈良 鹿男(奈良市役所)※奈良市には人間はいないのかもしれない。

山田 風太郎(ハローワーク)※山田太郎から一捻り。伊賀や甲賀から公募が来てたりしないだろうな。

日本 防衛(自衛隊受験票)※これは「使命」の洒落なのか。

有鳶 時音《あると びじょん》(マーケティング支援サービス・アルトビジョン)※ちょっとリアリティのあるキラキラネーム。

甲野義夫 乙野由香(津市役所 婚姻届)

※「津 太郎」はちょっと厳しいかと思って津市役所各種書類の記入例を調べたら、だいたい「津市 太郎/花子」あたりに逃げていたのだが、婚姻届でちょっと凝った名前が出てきて笑った。

ちなみに証人の方も「津市 和夫」と「津市 道子」とやや凝っている。しかし凝ったのはいいけど……「甲」と「乙」って……ちょっと「裁判離婚にいたりそう」な感じがして縁起悪くないですかね。

もっとも「婚姻」はすなわち「契約」なのだと考えれば「甲と乙」も当然か。

立山 一郎(富山大学)※「立山」に一工夫が見られる。

筑波 新一(筑波大学・授業料免除申請書類)※ネットで話題に。家族が「父:筑波優作、兄:筑波平次、姉:筑波蘭、弟:筑波光彦、妹:筑波哀」とあり、事件に巻き込まれるのは必須の様相。

統計 秋代(国勢調査・世帯主)※なぜ秋代だったのか。微妙な凝り方に首を傾げる。そういえば「あきこ」という名前の用字についての印象を縷々書いていたのは山口瞳だったか。「晈子《あきこ》じゃ咬まれそうだ」というくだりをよく覚えている。

美幌 健太郎、美幌 なみ子(御幌町戸籍課)

肉戸 焼酎(宮崎県都城市役所)※かなり強い主張を感じる氏名である。

退職 康夫(国民健康保険退職被保険者証)

進研 ゼミ夫(進研ゼミ)※安易系だが「ゼミ夫」の語感に踏み込みを感じる。

鮫 甚兵衛(いおワールドかごしま水族館年間パスポート)※妻は「鮫 羅鱶《さめ らぶか》」。さらに子供二人が「鮫 檸檬」と「鮫 小判」。二回分の入場料で年間無料になる。すごくお得じゃないですか。

KOKUYO履歴書用紙が物語るドラマ

記入例といえば市販の履歴書用紙である。

前田賢太郎氏

KOKUYOの「前田 賢太郎 (https://pbs.twimg.com/media/COig8iuVAAIXvFS.jpg)」氏がよく知られている。

前田氏は港区在住、城北大卒業見込みで、十年剣道部で鍛えたスポーツマン、専攻に国際経済論とあり、アジア経済について研究したとか。どこかのお坊っちゃんだろうか。TOEIC のスコアが780点というのは国際経済論の観点からするとやや物足りないか。だが学問・スポーツばかりか芸術方面にも素養があるらしく、オールラウンドに多才なリア充という感があり、しかも字も綺麗で常識もありそうだ。この記入例の前田氏は多くの履歴書執筆者を絶望に追い込んできた。

だがちょっと待ってほしい。この前田氏は翌年の卒業見込みを前に「12月24日」に……つまりクリスマス・イブに問題の履歴書を書いているのである。これは新卒の就活をするタイミングとしてはけっこう微妙な時期ではないだろうか。就活ではなくて、なにか臨時のバイトにでも応募するのだろうか。しかしクリスマス・イブにバイト探し?

イベントカレンダー的に見ても……このタイミングで履歴書を書いているというのは……

就活の上でも、プライベートでも、ちょっと辛い日々を送っている節がないだろうか。かなり追い込まれている感がしてこないだろうか。だれか身近な人が声をかけてあげたほうが良くはないか。

若月淳一氏

かたや「若月 淳一」氏 (https://pbs.twimg.com/media/CLpXAHNUEAAvgWz.jpg:large) は「配偶者を除く扶養家族」が三名ありながら二年近く無職の期間があったことが公然の事実となっている。一身上の都合で退職したとのことだが、事情はさまざまにあることだろう。だが面接で突っ込まれるのは間違いないだろうから、がっちり理論武装して望んでもらいたい。

再就職、がんばってほしいのだが……お気づきでしょうか、若月氏も履歴書を「12月24日」に書いているんだよな。

衝撃の事実

あれっ、ちょと待てよ、若月氏は前田氏の高校の先輩だな。学部は違うけど大学も先輩だ。知り合いでもおかしくないかな……と思っていたら衝撃の事実を発見してしまった。この二人、多分同じ所に住んでるよね。シェアハウスだろうか? 港区の戸建てで?

これ、ちょっと訳ありな話だったんじゃないの。もう想像をたくましくしてしまう。あやしくない? ケンとジュン。KOKUYOも意外なネタをぶっこんでくるな。

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Published in: on 2015/11/13 at 20:43  コメントする  

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